最近の研究に思うこと
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北京協和医学院
須田 年生要約ポイント
- 造血幹細胞研究の本質 ―「環境との相互作用」と未解決課題
- 研究技術の進化とその功罪 ― 情報過多・AIとの向き合い方
- 研究評価と継続性 ― Publicationの意義
まず、この度の熊本地震(2026年7月)で被災された方に、心からお見舞い申し上げます。 ここでは、研究について若干の感想を述べたいと思います。
私のしてきた研究は、「造血幹細胞と微小環境」の解析です。造血幹細胞は、あらゆる種類の血液細胞の源です。幹細胞は自律的に赤血球や白血球を造るだけでなく、周りにあるいろいろな細胞やニッチ因子の影響を受け、血液細胞の産生を調整しています。つまり、幹細胞は独自に生きているわけではなく、環境とクロストークしながら、時にはストレスに耐えながらも、「造血」という生命に欠くことのない機能を維持しています。周辺環境との相互作用のなかで働くというのは、人の生き方と似ている感じがします。
熊本大学で独立して研究室をもち、慶応義塾大学で定年を迎え、その後、シンガポール国立大学(NUS)を経て、今も、天津にある北京協和医学院で、造血研究が続けられるのは幸運なことだと思います。
私は、造血幹細胞の精緻で持続的な制御機構に魅せられ、ほぼ半世紀間、研究してきました。この間、幹細胞研究の解析技術は、FACS、シングルセルRNA解析など飛躍的に進みました。 しかし、振り返ってみれば、幹細胞における根源的な課題、例えば、自己複製とは何か、細胞分裂回数の制御(静止期と分裂期の制御)などは、いまだ未解決のままです。研究テーマに迷ったら、古典(と云っても10-20年前の文献)の命題に戻るのも一方法かもしれません。解析技術が進化すれば、おのずから、結果が違うことがあります。かつて、「論文は、IntroductionとMethodsを読めばいい」という極論をいう人がいました。彼によると、生物学では、同じ方法をとっても、微妙に結果は違うものだというのです。
私のようなロートルは、最近、シングルセルRNA解析の情報過多にやや困惑しています。図表の半分以上が、その情報処理であることもあり、生物学的なメッセージは何か?と首をかしげる論文もあります。
私が、30-40代のころは、ノックアウトマウスの論文が席巻しました。今も、一遺伝子の欠損により表現型が現れると、その分子の生物学的重要性が示されます。しかし、分子は、分子ネットワークのなかの一要素でしかないことも明らかで、それゆえに、関連分子全体のパスウェイ解析が必要になるのでしょう。
さらには、ここ数年の生成AI の進化です。私のいくつかの質問にも詳細に答えてくれます。無理に、話題分子をつなげようとしたり、計画に対して肯定的であったりする欠点はありますが、こちらが、いい質問を続け、精度判定を間違えなければ、きわめて有力なパートナです。 話はややそれますが、協和医学院でも、院生の試験に、英語(英訳・中国訳)問題があります。なんとか出題はできますが、中国語を解しない私は、採点ができません。要するに、評価がしっかりできない限り、AI というパートナは、不安でもあるのです。
よくシンガポールや中国の臨床・研究体制を聞かれますが、国の科学行政が違うので、日本の研究サポートにはあまり参考にはならないと思います(図参照)。唯一、共通するのはPublicationの重要性です。いくらいい成果をもっていても、それが世に出ないかぎり、評価のしようがありません。過度にトップジャーナルを目指して、数年も費やすというのはどうでしょう?「研究は、継続してこそ」という点もあると思うのですがいかがですか?

この規模の研究病棟は、所詮、日本では無理。
これに太刀打ちするには、小さな発見を大事にすることか?