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研究コラム

Column

第1回:どうしてスウェーデンに行ったのか

記事提供

熊本大学国際先端医学研究機構

三原田 賢一
記事提供者の写真

要約ポイント

  1. ルンド大学を選んだのはスウェーデンに住みたかったから
  2. 研究を自ら設定・遂行する経験と協力を重んじるヨーロッパの研究分化
  3. スウェーデンでの暮らしから育まれた「研究は生活の一部」という研究人生の土台

はじめに

about

熊本大学・国際先端医学研究機構の三原田です。
このたび、化血研さまのご厚意により、コラムを書かせていただくことになりました。
あまり一般的な事を書いてもつまらないですし、まっとうなことを書けるわけでもないので、あくまで個人的な体験談的なものをつらつらと書かせていただきたいと思います。
不評でなければある程度の連載になると思いますので(?)、お付き合いいただけたら幸いです。

なぜスウェーデン? 「留学」ではなく「住みたかったから」

さて、私は現在熊本大学におりますが、それ以前の2009年から2021年までスウェーデンのルンド大学に拠点を置いていました(現在も所属しております)。
スウェーデンという国は、留学先としてあまりメジャーではないかもしれません。よく「どうしてスウェーデンに行ったんですか?」と言われました(今でもよく聞かれますが)。そもそも北欧の国でIKEAとVOLVOがあって高福祉で・・・というイメージくらいしかない方が多いと思います。研究者や研究者を目指す方々にとってはノーベル賞の国、というイメージもあるかもしれません。
では、なぜスウェーデンに留学したのか?というと、「スウェーデンに住みたかったから」というのが正直な理由です。自然が豊かで街並みが美しく、素朴で暑くない(これ重要)国でその文化や生活を楽しみたい、というのが第一の理由でした。ですので、私はあまり「スウェーデンに留学していた」とは言いません。スウェーデンに住んでいた、スウェーデンで研究していた、という言い方をします。
私は研究は生活の一部だと考えていまして ー この言葉は人によって捉え方が違うのですが ー 研究を中心とした生活、とは少々異なります。そこにあるライフスタイルや人々の考え方、時間の流れなどが研究に対する考え方やアイデア、人間関係に大きく影響を与えるので、研究もその生活の一部分として組み込まれていると思っています。

恩師・Stefan Karlsson教授との出会い

理化学研究所で2年間基礎科学特別研究員として研究をした後に、海外で研究したいというモチベーションがまさにそれでした。そこからノルウェーやスウェーデンの研究所や大学を調べ、自身の専門である赤血球造血や造血幹細胞の拠点を探しているうちに、ルンド大学・幹細胞研究所に巡り会ったのです。次は希望する研究室ですが、そういった動機ですので自分でやりたいように研究をさせてくれるボスを選ぶことになります。幸運にも、国際学会でその後お世話になるStefan Karlsson教授と出会い、快く受け入れてもらうことができました。
Stefanは写真を見ていただければわかるとおり大変温和で面倒見の良い方です。スウェーデンに渡って最初の頃はよく週末などに奥様と一緒にドライブに連れて行ってくれました。その行き先も美術館や隣国デンマークだったりで、研究の話は一切出ません。生活にも気を遣ってくれました。一方で「英語なんとかしろ」とは度々忠告を受けまして、個人的にチューターを紹介してくれたりもしました(おかげでRとL の発音がある程度使い分けられるようになりました)。

留学先のボス・Stefan Karlsson教授と、Karlssonラボの学生の学位授与パーティーにて

「テーマは自分で決める」という戸惑いと自立

さて、Stefanは遺伝子治療や造血幹細胞制御の研究をしていましたが、私には何もテーマをくれませんでした。最初1か月は同僚や他のPIと話をし、どういう研究がいいか考える日々でした。今思えば、話を聞いた多くの同僚はまだ学生でしたが、皆自身の研究テーマを堂々と話していたのが印象的でした。
なんとか3つテーマの候補を考えて部屋を訪ね、提案すると「幹細胞のテーマが良いな」と言い、(全部幹細胞のプロジェクトなんだけどな。。。)と思いつつ「I see」とだけ言ってよくわからないまま実験を開始しました。その後もどんなデータを見せても「Great!」「Fantastic!」しか言わず、戸惑っていたのですが同僚達の支えもあってプロジェクトを進めていけました。

北欧最大の学園都市と、「アットホーム」な研究所

ルンド大学は北欧で最大の大学で、10万人しかいないルンド市民のうち学生と教職員で4万人になります。まさに学園都市(都市ではないけど)。国際色も豊かで、外国人という疎外感はありませんでした。小さな街ですが、のんびりしていて治安も良く、今でも第二の故郷と思っているくらい好きな街です。
StefanラボはDivision of Molecular Medicine & Gene Therapy(Molmed)という部署の一部でした。というよりもStefanが作り上げた部署で、他のPIは全員Stefanの元教え子か同僚という、良くも悪くも家庭的な雰囲気です。Stefan自身はアイスランド人ですが、他のPIはスウェーデン人です。スウェーデン人は親切な人が多く、Molmedの同僚達も本当にいい人達でした。
ご想像の通り北欧人はほぼ全員英語が得意なのでナチュラルに会話は英語でした。スウェーデン語で会話していても、私が来ると自然にスッと英語に移行してくれました。一方で、「やや閉鎖的だ」と感じる人もいたようで、あまり積極性がなく、のんびりしすぎているきらいはあったようです。ですので「ケニチ(こう呼ばれていた)が来てnew bloodが入ったのは凄く良いことだよ」と言ってもらえました。
この温かい雰囲気の中で、自分で研究テーマを設定して完遂するという経験をさせてもらえたのは本当にかけがえのない体験で、これがその後の研究人生を決定づけることになったのは疑いようがありません。彼らはコーヒーを片手に廊下で議論するのが好きで、Stefanのかわりに私にたくさんの助言をくれました。

17時退勤の秘密:アメリカは競争、ヨーロッパは協調

スウェーデンでは、PIもポスドクも学生も朝は9時過ぎに来て17時には帰ります(Stefanは10時に来て15時には帰る)。今でも、みんなどうやって実験してるんだ??と思いますが、よく見ていると協力して実験していることが多かったです。誰かの実験を手伝って、その代わりに次回は手伝ってもらう・・・(ちょっと)大がかりな実験はサンプルをシェアする、などの工夫をしていました。Stefanは「アメリカはcompetition、ヨーロッパはcollaboration文化」とよく言っていましたが、みんなで和気藹々と実験をするのは楽しかったです。
幸いにも、最初の論文がスウェーデンに引っ越してから2年後には投稿でき、本当に幸運にも3か月経たずにアクセプトされました。みんなでシャンパンを空け、お祝いをしてもらいました。スウェーデンでは学位取得時にも結婚披露宴のような大きなパーティーを開き、親や親戚も呼んで盛大に祝います。博士号がいかに重要で、尊敬されているのかよくわかるのと同時に、うらやましく思ったものです。

というわけで楽しい研究生活を送っていたのですが、全てがスムーズに行くわけではなく・・・。
次回はそこからどのようにPIになったかを書きたいと思います。

用語辞典

  • 造血幹細胞

    血液中のあらゆる細胞(赤血球・白血球・血小板など)のもととなる細胞。骨髄に存在し、生涯にわたり血液を作り続ける。白血病などの治療に応用される重要な研究対象

  • 赤血球造血

    多能性造血幹細胞である血球芽細胞から赤血球が作られるプロセスのこと。酸素を全身に運ぶ赤血球の産生・分化のしくみを解明する研究分野として、貧血や血液疾患の治療研究に直結する。英語:erythropoiesis、エリスロポエシス

  • 理化学研究所

    理化学研究所(理研) 日本の国立研究開発法人。物理・化学・生物・医学など幅広い分野の基礎研究を担う日本最大規模の自然科学総合研究機構

  • アメリカはcompetition、ヨーロッパはcollaboration文化

    ヨーロッパの研究文化は研究者同士の「協力(collaboration)」を重視するのに対し、アメリカでは個々の研究室が成果を競う「競争(competition)」文化が強いと言われる

  • ルンド大学

    スウェーデン南部に位置する北欧最大規模の大学。1666年創立。人口10万人のルンド市に学生・教職員約4万人が集まる学術都市を形成する。幹細胞研究でも世界的に高い評価を受けている

  • PI

    PI(Principal Investigator) 研究室を主宰する独立した研究者のこと。研究テーマの設定・資金獲得・チームのマネジメントに責任を持つ立場

  • ポスドク

    ポスドク(博士研究員) 博士号(PhD)取得後に、大学や研究機関で任期付き研究職に就く研究者のこと。PIになる前段階として経験を積む期間。英語では「Postdoctoral researcher」