運・鈍・根―やり抜く力と創意工夫
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大阪大学免疫学フロンティア研究センター
宮坂 昌之要約ポイント
- 道のないところに行くことを躊躇するな、運・鈍・根が大事
- 失敗経験によってやり抜く力(GRIT)が生まれてくる
- 自分を信じること
私は大学を卒業後、臨床医(血液免疫内科)として約5年間仕事をしたが、いろいろと考えた挙げ句、臨床よりは基礎研究のほうが自分の性格に合っていると思うようになった。そして、30歳の時に、当時免疫学研究が盛んだったオーストラリアに渡り、大学院博士課程に進み、免疫学研究の道に入った。その後、スイスのバーゼル免疫学研究所に移って自分の研究室を持ち、免疫学の基礎研究を続けた。この研究所では、当時、ニールス・イエルネ(クローン選択説)、利根川進(遺伝子再構成)、ジョルジュ・ケーラー(モノクローナル抗体)の3人が丁度ノーベル賞を受賞していて、また、研究所の業績評価委員にはジェームズ・ワトソン(DNA二重らせん)、フランソワ・ジャコブ(オペロン説)やマックス・デルブリュック(バクテリオファージ)などのノーベル賞受賞者たちが居た。彼らを見ていると、中には、これはとても追いつきそうもないと思われるようなとんでもない才能を持つ人も居たが、スマートというよりは、言葉は悪いが、むしろ鈍くさい、あるいは不器用タイプが多かった。自分が思いついたことに執着して、しかし人並みなところで満足はせずに自分なりに徹底的に創意工夫を加えて最後までやり抜き、ゴールに到達した人たちだったのかもしれない。
この点、日本では「運・鈍・根」という言葉がある。「運」は幸運、「鈍」は鈍重なほどの粘り強さ、「根」は物事をやり遂げるための根気のことである。明治時代の古河財閥の創始者である古河市兵衛の言葉だそうだ。彼は、賢さも大事だがもっと大事なのは鈍いぐらいに粘り強く愚直であることだと考えていたようだ。頭の良い人は研究中に壁にぶつかると、すぐに別のやり方を考えたり、方向転換をしたりする傾向があるが、市兵衛は「器用貧乏」を嫌い、むしろ一つの道を突き詰めて頑張るほうが最終的に「運」を呼び込むと考え、「運・鈍・根」を自分のモットーとしたとのことだ。
似たようなことをアメリカの心理学者であるアンジェラ・ダックワースが言っている。成功を左右するのは「やり抜く力」であり、その大事な四要素がGRITであるという。GはGuts(困難に立ち向かう「度胸」、「肚(はら)」)、RはResilience(失敗しても「再び立ち上がる力」)、IはInitiative(自分で目標を立てる「自発性」)、そして、TはTenacity(最後まで目標に到達しようとする「粘り」)を指す。つまり、失敗は成功への通過点であり、失敗を乗り越えて初めて成功が見えてくるという。
研究もまさに同じである。挑戦と学びを繰り返すことを厭わない粘り強さが新しい発見につながる。道のないところに行くことを躊躇しない心(志)と「運・鈍・根」あるいはGRITがあれば、いつか「新しい道を切り拓く」ことができるかもしれない。自分を信じることだ。