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研究コラム

Column

第1回:教授選考のリアル – 01

記事提供

大阪大学大学院医学系研究科

井上 大地
記事提供者の写真

要約ポイント

  1. 振り返ると、人との「縁」が予期せぬ形でキャリアを切り開いていた
  2. 研究者のキャリアは「パス(道)」ではなく「海流」のようなもの
  3. 自分のベストな生き方を追い続けることが、思いもよらない「縁」の扉を開く鍵になる

はじめに

about

「国際非卓越大学から毎度おおきに」。 総長が見たらひっくり返りそうな、どこか愛着の込もったタイトルを掲げて、この連載を始めることにした。総長も医学部長もこのコラムを見ないことを前提にギリギリを攻めていきたい。突然コラムが閉鎖されたら、その時は察してほしい。私は現在、大阪大学で研究室を主宰しているが、起伏に満ちた道のりが誰かの役に立てば幸いである。予期せぬ人を紡ぐ縁が複雑に絡み合い、気づけば運命に流されるようにして阪大に辿り着いた、というのが本音である。

 白南風の吹く7月の記念すべき第1回は、多くの若手研究者にとってブラックボックスであろう教授選考のリアルな舞台裏についてお話ししたい。

「このセミナーの意味、わかっているな?」

物語は、神戸でゼロからラボを立ち上げ(2019年)、必死に泥を啜るような思いで研究を続けていた3年前のある日(2023年)に遡る。突然、阪大の大御所教授から一通の連絡が入った。 「一度、うちでセミナーをしてくれないか」 表向きは単なる学術交流の誘いである。しかし、メールの行間に漂ってくる空気は異質なものだった。その先生からは、こう念を押された。 「このセミナーの意味、わかっているな?」

 当時、別の大学からも誘っていただき、もうそちらに心は決めていた。でも2023年6月のある日、突然の病に倒れ、長期入院することとなり、運命の歯車が狂い始めた(この話は長いのでまた別の機会に)。

 それでも阪大からは熱心にお待ちいただき、退院後にZoomでの画面越しだった。体調不良を押し殺してなんとか頑張った。誰かに気に入られようと迎合しまい、それだけは自分の人生のスタイルだったので、リラックスして好きなこと、やりたいことを思うがままに話した。

 その後選考が進み、翌年1月には阪大のキャンパスに立っていた。そこにあったのは、ガチの選考プレゼンテーションの場だった。しかも即日投票される。一発勝負の運命の舞台だ。

辿り着いた「縁」の源流

 なぜ、しがない一研究者に過ぎなかった私に、そんな機会が巡ってきたのか。選考が進むにつれ、私は自分のキャリアを一本の糸で手繰り寄せてみた。すると、意外な場所へと繋がっていることに気づいた。

 始まりは、前任の神戸時代に採択された「AMED-PRIME」だった。若手研究者の登竜門とも言えるこのグラント(研究費)は、単なる資金源以上の価値を私にもたらしてくれた。PRIMEの領域会議や交流会を通じて、これまで接点のなかった阪大の先生方と知り合い、私の研究を知ってもらう機会を得たのだ。

さらにそのPRIMEを頂く原動力となったのは、私が独立して最初に受け入れたポスドク(その後、東京科学大学に栄転)と一緒に進めていたプロジェクトだった。「それ、面白いやん」と笑い合ったあの時間がなければ、大阪に来ることもなかった。もっと言えば、大病を患わなければ別の大学に行っていただろう。あの日、あの場所で、あの仲間たちと興味を追いかけた結果が回り回って吹田キャンパスへの縁を連れてきたのだ。好き勝手に生きてきたが、「なるようになったところが解である」、という私の人生訓そのものであった。期せずして、京都で学び、神戸に住み、大阪に通う、という一人三都物語の実践者となった。

仕事の場は「勝手に」形成されていく

 研究者の世界では、「キャリアパス」という言葉がよく使われる。しかし、実際にその中を泳いでいる身からすれば、パス(道)というよりは、海流のようなものだと感じる。

 自分で必死に泳いでいるつもりでも、実は目に見えない「縁」という潮流が、自分を思わぬ場所へと運んでいく。自身の阪大への着任も、振り返れば「あの時のあのプロジェクト」が、「あの先生との出会い」に繋がり、それがおっかないセミナーへと結実していた。 仕事の場というものは、自分で完璧に設計するものではなく、目の前の研究と人に誠実に向き合っているうちに、勝手に形成されていく不思議なものなのだ。

 若手研究者や、これから研究の道を志す中高生の皆さんに伝えたいのは、「計画通りにいかなくても焦る必要はない」「自分の思うベストな生き方をしよう Live Your Best Life」ということだ。 もちろん、目の前の実験は往々にして失敗するし、心血を注いで書いたグラント・論文がリジェクト(却下)されて、枕を濡らす夜もあるだろう。周りの華々しい人たちを見て、妬みの気持ちが湧くこともあるだろう。私だって、同期の医師たちを見て「なぜこんな苦しいことをしているのか」と自問自答することばかりだ。

 それでも、泥臭く試行錯誤を繰り返していれば、誰かがどこかで見ていてくれる。捨てる神あれば、必ず拾う神がいる。そして、思いもよらない瞬間に「縁」の糸が繋がり、次のステージへの扉が開くのかもしれない。

 教授選考の舞台にも立てず病床にいたあの頃の私に、今の私はこう声をかけたい。 「非卓越大学がお前を待っている」、そして「学務と委員のフルコンボも一緒に待っている」と。繰り返し言うが、阪大の関係者がこのコラムを見ないことを祈る。 

 さて、なんとか阪大に辿り着いた私であるが、今度は人を選ぶ側になった。第2回はどのような点が選考で重視されているかについてお話ししよう。この話題はきっと皆のこころに響くだろう。

万博公園の向こうに浮かぶ白い巨塔(2026年 夏の兆す日)

用語辞典

  • AMED-PRIME

    国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が運営する若手研究者向けの競争的研究資金プログラム。独立間もない研究者が主任研究者として申請できる登竜門的なグラントで、研究費の獲得だけでなく、領域内の研究者ネットワーク形成の場にもなる

  • グラント

    政府機関・財団などが研究活動を支援するために提供する競争的研究資金のこと。研究者は申請書(プロポーザル)を提出し、審査を経て採択される。日本では科研費(科学研究費助成事業)などが代表例

  • リジェクト

    投稿した論文やグラント申請書が、査読・審査の結果、掲載・採択を断られること。研究者にとって日常的に経験する試練のひとつ

  • ポスドク

    ポスドク(博士研究員) 博士号(PhD)取得後に、大学や研究機関で任期付き研究職に就く研究者のこと。PIになる前段階として経験を積む期間。英語では「Postdoctoral researcher」

  • 教授選考

    大学における教授職の採用プロセス。公募への応募・書類審査・セミナー発表・面接・投票などの段階を経ることが多く、選考基準や過程は大学・学部によって異なる

  • PI

    PI(Principal Investigator) 研究室を主宰する独立した研究者のこと。研究テーマの設定・資金獲得・チームのマネジメントに責任を持つ立場