研究者として必要なもの
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東京理科大学生命医科学研究所
吉村 昭彦要約ポイント
- 研究成果の多くは、自分ひとりの力ではなく、人との出会いや仲間との協働によって生まれる。
- よい出会いに恵まれることは成功の大きな秘訣だが、そのためには自分自身も誰かにとって「出会えてよかった」と思われる存在である必要がある。
- 「人を惹きつける魅力」には正解はなく、自分は何を与えられるのか?を探していくことが大切である。
化血研から、若い研究者に向けて何か書いてほしいというお題をいただいた。
私はすでに一度大学を定年退職した、いわば昭和の研究者である。いまの若い人たちとは、研究を取り巻く環境も、仕事に対する意識も、かなり違っているだろう。私が若い頃には、「ブラック」や「パワハラ」といった言葉はなかった。私は決して秀才ではなく、「人の3倍働くので、どうか良い成果をください」とサイエンスの神様にお願いしながら、ここまで来たような人間である。太田原豊一賞には縁がなかったし、研究人生がいつも順風満帆だったわけでもない1。けれども結果的には、2025年にClarivate PlcのHighly Cited Researchersに選ばれた。世間一般の基準で見れば、研究者としてそれなりの業績を上げてきたと言ってよいのかもしれない。
振り返ってみると、MITホワイトヘッド研究所への留学中に、エリスロポエチン受容体の恒常的活性化変異2やpp130(後のJAK)3を見いだし、少し世に知られるようになった。続いてCIS、SOCS1、SPREDをクローニング4-6し、サイトカインシグナルに負のフィードバック制御があることを明らかにした。さらに、制御性T細胞(Treg)やT細胞疲弊の誘導の要となる、免疫寛容の中心的転写因子NR4aを見いだした7,8。また、脳梗塞モデルを用いて、脳と免疫の研究分野を開拓した9–12。
こうして並べると、いかにも自分で着々と道を切り開いてきたように見えるかもしれない。だが、実際に自分一人でできたことはごくわずかである。若い頃の仕事は、それぞれの場でボスが環境を与えてくれたからこそ可能になったものばかりだ。エリスロポエチン受容体の研究はMITにいたからこそできたし、CISの発見はDNA研究所の宮島先生のラボでなければ不可能だっただろう。SOCS、SPRED、NR4aを見いだせたのも、実際には大学院生やポスドクが懸命に手を動かしてくれたからである。SPRED1が神経線維腫症様疾患の原因遺伝子であることを突き止めることができたのは、ベルギーのLegius先生から声をかけていただいたおかげであった13。NR4aが「疲弊」の重要な誘導因子であることの発見は、米国のAnjana Rao先生が主導したもので、我々の貢献は主にノックアウトマウスをせっせと米国に送り続けたことだった。脳梗塞モデルは極めて難度が高い技術で、自分ができるはずはなく、大学院生だった七田君や伊藤さんがいてこその成果であった。
つまり、私の科学的成果のかなりの部分、95%、いや99%は、「人との出会い」によってもたらされたと言ってよい。誰かに引き上げてもらい、良いタイミングで声をかけてもらい、優れた共同研究者や学生、スタッフに支えてもらって、ようやく形になったものばかりである。
研究者として前に進むうえで本当に大切なのは、結局のところ、「よい人に出会うこと」「よい仲間に恵まれること」なのではないかと思う。
ただ、ここで大事なのは、よい出会いを望むなら、自分もまた誰かにとっての「よい出会い」にならなければならない、ということである。
では、人を惹きつける魅力とは何だろうか。これはなかなか難しい問いである。私の場合は昔のことなので、cDNAクローンやノックアウトマウスのように、共同研究のきっかけになる「もの」を持っていることが強みになった。けれども、これからの時代に何が人を惹きつけるのか、何を相手に与えられるのかは、もっと多様になっているように思う。新しい技術かもしれないし、発想の面白さかもしれない。あるいは、人柄や誠実さ、仕事の丁寧さかもしれない。正直に言えば、その答えを私はうまく言葉にできない。結局のところ、自分には何ができるのか、何を与えられるのか、自分のどこが魅力になりうるのかは、それぞれが自分で探していくしかないのだと思う。
研究の成果は論文や発見として残る。けれども、その背景にはいつも人との出会いがある。よい仲間や共同研究者に恵まれることは、研究者としての大きな幸運であり、ある意味では成功の秘訣でもある。もっと言えば、それこそが研究者として、いや人としての幸福なのだと思う。
参考文献
- 免疫「超」入門(講談社ブルーバックス, 2023);JAK発見しそこないの物語
- Nature 1990; 348: 647-9.
- Mol Cell Biol 1992; 12: 706-15.
- Nature 1997; 387: 921–4.
- EMBO J 1995; 14: 2816-26.
- Nature 2001; 412: 647-51.
- Nat Immunol 2013; 14: 230–7.
- Nature 2019; 567: 530–4.
- Nat Med 2009; 15: 946-50.
- Nat Med 2012; 18: 911-7.
- Nat Med 2017; 23: 723-32.
- Nature 2019; 565: 246–50.
- Nat Genet 2007; 39: 1120-6.