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研究コラム

Column

第2回:教授選考のリアル – 02 人事で何が見られているか

記事提供

大阪大学大学院医学系研究科

井上 大地
記事提供者の写真

要約ポイント

  1. 応募書類だけでは差がつかない教授選考——業績はあくまで「必要条件」に過ぎない現実
  2. 見られているのは、独自のサイエンス、うまくいかない時期も含めた「生き様」、そして周囲へのリスペクト
  3. 研究費の裏付け、そして非専門家にも伝わるプレゼンの力が、最後は「打席に立てるかどうか」を左右する

はじめに

about

今回は「人事で何が重視されるか」について、自身が長年感じてきたことを書こうと思う。
学部や附属の研究所、大学院のみの研究科、など状況は異なれど、できる限り普遍的なことに触れて、これからアカデミアの公募戦線に立ち向かっていく方々の一助になれれば幸いである。

業績リストは必要条件

 まず、身も蓋もない前提だが、選考は土俵に上がらなければ始まらない。自薦か他薦かはさておき、まず公募に出し、プレゼンの機会が与えられる若干名に残る。ここを通らなければ、どれほど立派な構想を持っていても検討すらされない。裏を返せば、「あの人に一度話をさせてみては」と言ってくれるPIが一人いるかどうかが、評価される以前の段階でかなり効いてくる。不公平に聞こえるかもしれないが、これが現実である。自身のコンフォートゾーンの少し外側の学会やイベントなどに顔を出して、人とのつながりを広げていくことも縁を呼び込むことになるだろうか。

 選ぶ側に回って最初に驚いたのは、応募書類を並べても思ったほど差がつかない。というのも、応募してこられる方はどなたも優秀で、論文もグラントも立派である。求められる人材にフィットした業績をすでに持っている、現在進行形で出しつつある、ということは「必要条件」でしかないようだ。

ボスの看板を外したときに、何が残るか

 その上で見られているのは、結局のところ次のようなことだと思う。

 まず、あなた独自のサイエンスやオリジナリティと呼べる分野があるか。大御所ラボや海外の有名ラボで一発CNS(Cell/Nature/Science)や姉妹誌を当てて帰ってくる人は、実はそれほど珍しくない。知りたいのはその先である。あの大きな仕事のうち、どこからがあなたの問いだったのか。独立してから、どれだけ独自路線を走れたのか。ボスの看板を外したときに手元に残るものが、そのまま評価になる。

 次に、サイエンスや教育、研究コミュニティに対してどんな哲学を持ち、研究者としてどう生きてきたか。何を面白いと感じ、どこに時間を賭けてきたのか。一言で言えば「生き様」と呼べるものではないだろうか?この人は気概や覚悟が違うな、と思わせる履歴書は訴求性が高いように思う。順風満帆である必要はまったくない。むしろ、うまくいかなかった時期に何を考えていたかのほうが、その人をよく表す。

 そして意外に比重を占めるのが、隣の研究をリスペクトできる人かどうかである。同じグループ、同じ研究科の他人の仕事を面白がれるか。組織の中で協調性を持ち、周りごと引き上げていけるか。この人が組織にジョインすることで、組織にとって、どのような利点があるだろうか?教授職の実態は、自分のラボを回すこと以上に、学務と委員会と人の面倒を見ることでできている(前回書いたフルコンボである)。ここに不安を持たれると、業績がどれだけ立派でもこころに響かないことも多い。

お金がなくては始められない

 もう一つ、極めて現実的な話。研究費である。着任後にお金に貧窮することが、受け入れる側にとっても一番避けたいことでもある。残念ながら(これは構造上の問題であるが)、欧米のようにスタートアップ経費が多いわけではない。競争的資金が潤沢である必要はないが、最初の数年を走り切れるだけの研究費が最低限確保されているか。鶏口牛後、の言葉どおり、すでに独立してチームを運営し、人を雇い、お金を回してきた経歴があれば、なお心強い。夢を語ると同時に、先立つもの、は小さくない評価対象になる。助教なら、自分の研究は自分の資金で回せること、准教授なら数名のチームを回せること、教授なら尚更なのは言うまでもない。

プレゼンにあたって

 プレゼンの声がかかればそれは名誉なこと。時に100名を超える公募もある。プレゼンで心得るべきことは、領域外の人に自分の研究の面白さをフェアに判断してもらうことだと思う。部屋にいる人の大半は、あなたの分野の専門家ではない。専門用語を並べて煙に巻いても、伝わらなければ存在しないのと同じである。あれもこれもアピールしたい、という思いが逆効果になることは多い。非専門家が理解できるスピードで筋を外さず、かつ哲学や生き様が伝わるストーリー性のあるプレゼンが理想ではないだろうか?このあたりはもちろん審査員の好みの問題に左右されるが、上記は普遍的な内容かと思う。

 また、過去の仕事にきちんと敬意を払い、その中で自分がどこに立っているのかを理解し、そこから先の道筋が見えている。この三つが揃った話は、分野が違っても不思議と面白く聞こえるし、聞いている側は「この人となら一緒にやれそうだ」と思う。

大学公募のこれからと課題

 結局は、打席に立つこと。推薦してくれる味方に出会うこと。自然と応援したくなる自分でいること。それでいて媚びないこと。最後の二つは矛盾しているようだが、両立する。それでも大学公募が抱える問題は数多ある。有力候補ありきの公募、女性限定公募、不透明な待遇、平等と公平の混同など、あげればキリがない。ただ、現在の(すくなくとも本学で観測される)仕組みは、現実的な枠組みの中で公平性を最大限担保したスキームだと感じている。もし選ぶ側の方が拙稿をお読みいただいているのであれば、「候補者にも選んでいただく」ために、ぜひ広い視野で愛ある取り組みを行って頂ければ幸いである。  

 次回は、非陽キャのネットワーキングについて書きたいと思う。

カナダ・ウィスラーに涼を求めて(2026年盛夏)

用語辞典

  • 業績リスト

    論文・グラント獲得歴・受賞歴などを一覧化した研究者の実績記録。教員公募の応募書類で必須とされる書類の一つ

  • CNS

    生命科学分野で特に権威が高いとされる学術誌3誌(Cell誌、Nature誌、Science誌)の頭文字をとった略称。「CNSに掲載される」ことは研究者にとって大きな実績とされる

  • PI

    PI(Principal Investigator) 研究室を主宰する独立した研究者のこと。研究テーマの設定・資金獲得・チームのマネジメントに責任を持つ立場

  • スタートアップ経費

    新任の研究者が着任時に、実験機器の導入や研究室の立ち上げに使えるよう大学・機関から提供される初期研究資金。欧米に比べ日本は手薄とされることが多い

  • 競争的資金

    研究者が申請書を提出し、審査を経て採択された場合にのみ得られる研究費の総称。科研費やAMED等の公的グラントが代表例

  • 鶏口牛後

    けいこうぎゅうご。「大きな組織で人の下につくより、小さくても自分が長として采配を振るう方がよい」という意味のことわざ