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研究コラム

Column

独創性と革新性に挑む〜異分野融合のセレンディピティとパラダイムシフト

記事提供

東北大学大学院医学系研究科 レドックス分子医学分野

赤池 孝章
記事提供者の写真

要約ポイント

  1. 道なきところに自ら道を切り拓く: 困難や失敗を恐れず独創性と主体性を重視し、継続的に挑戦することが重要である。
  2. 異分野融合によるセレンディピティとパラダイムシフト: 感染症研究とレドックスバイオロジーの境界領域研究により大きなブレークスルーがあった。
  3. 新しい電子伝達機構「硫黄呼吸」の発見: 活性酸素やNO研究で偶然見つかった超硫黄分子によるエネルギー代謝であり生物の基本的な生命活動に関わる。社会実装の展開性が高く国内外で注目されている。

 筆者自身の研究キャリアを振り返り、次世代を担う若手研究者に向けて述べたいことは、まず筆者の座右の銘である。一酸化窒素(NO)の生理機能を発見しノーベル生理学・医学賞を受賞したLouis J. Ignarro教授からいただいた「Don’t go where the path may lead. Go instead where there is no path and leave a trail(踏みならされた道を行くのではなく、道なきところに自ら道を切り拓くべきだ)」という教示である。困難や失敗への忌避を克服し、独創性と主体性を重んじる姿勢が、学術研究において極めて重要である。未踏領域への挑戦と成果は、新規価値の創出や社会貢献に直結する可能性がある。自身の独創性を貫きながら倦まず弛まず継続的に挑戦し続けることが肝要である。このことは、例えば、先達の偉人である北里柴三郎先生の果敢な挑戦により築かれたパラダイムが今日の医学研究の展開への大きなドライビングフォースとなったことからも明らかである。

 もうひとつは、異分野の学術活動によりもたらされるセレンディピティとパラダイムシフトである。筆者の研究キャリアは、熊本大学医学部を卒業して内科臨床研修の後大学院に進学したところからはじまる。当時は内科病棟の入院患者さんを担当しながら、基礎の微生物学講座で博士研究に従事していた。研究テーマとしては感染症であったが実際は、感染病態と感染制御における酸化ストレスの研究という感染症研究の王道から外れた異分野・境界領域の研究を行った。その後、大学で助手・講師・助教授・教授として奉職するなかで、研究の対象は、酸化ストレスからNOや活性酸素によるシグナル伝達研究へ移行して行った。近年は、活性酸素研究をRedox Biology(レドックスバイオロジー)と呼ぶようになったが、14年前に東北大学に異動して今日まで4半世紀以上にわたり当該分野で仕事を続けている。

 一方、筆者は熊本大学医学部では細菌学教育を担当していた。その教育活動のなかで、細菌の病原性を理解する上で重要な課題として『細菌のエネルギー代謝』があった。研究活動としてはレドックスバイオロジーというどちらかというとケミストリー基盤の研究を展開しながら、医学教育の視点からは、エネルギー代謝という生物学の異分野領域を取り扱うこととなった。

 細菌は嫌気的呼吸・エネルギー代謝を営む。低酸素、無酸素状態で、糖を燃料にしてATPを産生する代謝経路であり、解糖、発酵、それと、嫌気的呼吸が知られている。ほ乳類の細胞と違って、細菌は酸素以外の電子受容体を使って、グルコースからATPを合成することができる。この代謝経路のおかげで、自然界や宿主などの厳しい環境を生き抜き、あるいは生体侵襲性を獲得して病原性を発揮する。発酵は、嫌気的な解糖系の一部であって、細菌や酵母(真菌)に固有の、所謂、基質レベルのATP合成であるので、基本的には動物の解糖系と同じ仕組みであるが、嫌気的呼吸は細菌に固有ものである。嫌気呼吸では、酸素の代わりに、亜硝酸イオンや亜硫酸イオンや酸化還元活性のある無機物および有機物(フマール酸など)が電子受容体となって呼吸鎖においてプロトン勾配と膜電位を形成してこれがドライビングフォースとなりエネルギーが生産されると教科書に記載されている。酸素を使った電子伝達は確かに効率が良い。酸素分子は、糖代謝により得られたNADHの還元力を、電子伝達系を介してとても効率良く受け取り、自身は最終的に安定な水になるので理想的な反応である。しかしながら、嫌気的な呼吸に使われるとされる物質は酸素にくらべて格段に反応効率がわるいので、学生に教えながらその教義が本当なのだろうかと自問自答していた。

 筆者らはこの疑問を払拭する新しい電子伝達機構である硫黄呼吸を発見した。活性酸素やNOの機能を解析するなかで、偶然、セレンディピティにより見つかった超硫黄分子(スーパースルフィド・活性硫黄分子)による嫌気的な呼吸・エネルギー代謝であるエネルギー代謝経路(硫黄呼吸)である。この代謝メカニズムは、原始的な細菌から我々ヒトの細胞においても機能しており、これまで見落とされていた生物の根本的な生命の営みであることが明らかになった。これはまさに、セレンディピティと異分野融合が創生したパラダイムシフト—新たな生体のエネルギー代謝機構の発見である(図参照)。超硫黄研究は、最近、国内外から大きな注目を浴びているが、当該研究の持ち味は社会実装の展開性の高さである。

 以上が筆者のキャリア形成の系譜である。周囲に流されず、自分の独創性と価値観を大切にして、勇気を持って挑戦し、失敗は学びとして次に活かして創造的な発想と研究活動を続けることが研究者の道を開くものであると信じている。